« 2002年07月 | メイン | 2002年09月 »

2002年08月21日

* 『レッドウォール伝説 勇者の剣』

ブライアン・ジェイクス著、西郷容子訳『レッドウォール伝説 勇者の剣』(1999年、徳間書店)

伝説の勇者マーティンにゆかりのある、モスフラワーの森近くにあるレッドウォール修道院では、修道士ネズミたちが祈りと癒しの日々を送っていました。ある夏、おそろしいドブネズミ《鞭のクルーニー》が、軍団を率いて修道院を我が物にしようと襲ってきます。修道院ネズミと森の生き物たちは、平和を守るために敢然と立ち向かいます。敵を撃退するには勇者マーティンの剣が不可欠だと考えた、若い見習修道士のマサイアスは、修道院の長老の協力を得て、剣を探す冒険を始めます。クルーニーの軍団の攻撃を、レッドウォール修道院は撃退できるのでしょうか。

最初は動物が主人公ということで「うーん」と思っていたのですが、だんだん物語に引き込まれてしまいました。キャラクターは動物ではありますが、勇者にあこがれる若者、美しく芯が強い少女、豪快な女傑、風変わりで有能な兵士など、個性的なキャラクターがいっぱい。悪役クルーニーは単なる乱暴者ではなく、恐ろしいほど知恵が回り、これ以上の敵はいないというほどの雰囲気です。物語は、主人公マサイアスの冒険とレッドウォール修道院の攻防戦が、並行して進みます。どちらもハラハラドキドキの展開が続きます。勇者マーティンの剣は、そう簡単には手に入れられません。クルーニーの軍団も、簡単に退散したりしません。

出会いと別れを通じてマサイアスは成長します。でもマサイアスだけが活躍する物語ではなく、レッドウォール修道院のために戦った生き物すべてが主役だと思いました。そして、最後の場面の美しさは感動です。「これが人間だとしたら、どんな感じになるかな」というのを想像するのも楽しいです。

投稿者 Remi : 08:23 | トラックバック | 本の虫(読書の記録・絵本と児童文学)

2002年08月13日

* 『ドルイドの歌』

O.R.メリング著、井辻朱美訳『ドルイドの歌』(1997年、講談社)

カナダに住むローズマリーとジミーの姉弟は、アイルランドに住む親戚のもとで夏を過ごすことになりました。ふたりは、その農場で働く、他人と関わろうとしないピーターという名の男が気になります。ピーターが夜中にどこかに行くことを知ったふたりは、ある夜、彼の後を追って湖のほとりに行きます。ピーターは奇妙な歌を歌っていました。恐ろしい思いをしたふたりは、疲れきってその場で眠ってしまいます。目覚めたふたりは、古代アイルランドで繰り広げられた、コノハトとアルスター両王国の「クーリーの牛捕り」の戦いのさなかにいました。ローズマリーとコノハトの王子との恋や、ジミーとアルスターの戦士との友情もはらむ大きな冒険を、ふたりは孤独なドルイド、ピーターの助けを得て進みます。

『歌う石』に比べると、現代に暮らす人間が異世界に行くという要素が強く感じられます。彼らが古代のアイルランドに行きっぱなしになるのではないことと、彼らをその世界に連れて行った張本人であるピーターも、ふたりとともに成長し、変化していくことが面白く感じられました。人によっては、激しい戦闘の描写や理解しがたい彼らの考え方に共感できないかもしれません。でも、現代の価値判断をこの時代に持ち込んだら、そちらのほうが奇妙だと思います。作者が当時の人々をありのままに描いた(と思います)ことで、物語がいっそう鮮やかになっていると思います。これは考えすぎかもしれませんが、別にメリングは戦争のむなしさがどうの、ということを書こうとは思っていないのではないでしょうか。

まだ2作品しか読んでいませんが、メリングの作品で基調となるものが十分感じられました。わくわくする部分は『歌う石』以上の勢いを感じましたが、結末の哲学的な雰囲気は難しくて、『歌う石』のほうがストレートで分かりやすかったです。

投稿者 Remi : 15:26 | トラックバック | 本の虫(読書の記録・絵本と児童文学)

2002年08月04日

* 『歌う石』

O.R.メリング著、井辻朱美訳『歌う石』(1995年、講談社)

少女ケイは、孤児として施設や里親のもとで育てられ、現在は一人で暮らしています。他人の過去や感情が映像として見える能力を持つ彼女は、自分が何者なのか知りたいと考えていました。ある日突然送られてきた、アイルランドに関する古い書物を読んだ彼女は、自分のルーツを求めてアイルランドへの旅に出かけます。不思議な力に導かれて古代アイルランドにやって来たケイは、アエーンという謎の少女と、トゥアハ・デ・ダナーン族の宝物を求める冒険を始めることになりました。

とてもスケールが大きく幻想的な物語です。モチーフとして使われていますが、まさにさまざまな人や場所、時間が織り込まれた織物のように豪華です。そしてケイが一体何者であるかが明らかになるのですが、これにも「あっ」と驚くような仕掛けがなされていました。古代アイルランドの歴史や伝説に非常に造詣が深いのは確かですが、主人公の幻視(ヴィジョン)を見る能力や登場人物の恋愛感情が、もっと深く書かれていれば、もっと面白く感じられたと思いました。もちろん『歌う石』は優れた物語だとは思います。でも、この点が唐突というか他に比べて浅い感じがしました。これで文体がもっと軽いものだったら、私が中学・高校時代に読んでいたティーンズ向け小説のような感じかもしれない、という印象を受けました。

投稿者 Remi : 15:24 | トラックバック | 本の虫(読書の記録・絵本と児童文学)